海外教会ウェディング

 Melbourne

 メルボルンはオーストラリアでシドニーに次いで二番目に大きい街らしい。今でこそ首都はキャンベラだが、その昔はメルボルンに臨時首都が置かれていたこともあったらしいし、オリンピックが開催されたこともあったという、なかなか由緒正しい街なのである。現在のところ日本からメルボルンへの直行便は飛んでいないため、日本人にとってはちょっと行くにくいかもしれない。

 国家としてのオーストラリアの歴史は浅く、登録されている世界遺産などを見てもほとんどが自然遺産であり、古都や、古き良き街並といったものは比較的少ないようだ。そんな中にあって、メルボルンは教会を始めとした重厚な石造りの建築物が立ち並び、トラムと呼ばれる路面電車が市内を縦横に走るなど、英国の面影を色濃く残したオーストラリアの中では特異な街である。そんなわけでメルボルンの市内観光といえば、トラムに乗って歴史的建築物を見物する、というものになってしまうのは旅行者として非常に自然な成り行きである。

 さて、正統派旅行者である私たちも例に漏れず、トラムに乗ってセントポール大聖堂(上の写真右側の灰色の建物)という、いかにも由緒ありそうな大仰な名前の教会を目指した。もちろん私たちが敬虔なクリスチャンであるはずはないことなど、今さら説明するまでもないだろう。ここに行くまでのトラムだが、驚くことになんと無料の大盤振舞である。全てのトラムが無料というわけではなくて、いわば観光客向けに、碁盤目状になった市内の道路の中から長方形になるように主要道路4本をつないで、そこを循環しているトラム1路線だけが無料になっている。この無料トラムの沿線だけで主要観光地をそこそこカバーできるので、初めて訪れる人にとってはありがたいサービスだ。タダとか無料とかサービスとかの言葉に敏感な人もそうでない人も利用しない手はない。

 セントポール大聖堂の入口には、なぜかゴージャスなドレスに着飾った日本人のまあまあ若いご婦人が3名と、礼服というかタキシードというか、そういう正装に身を包んだ若い白人男性が1名、さらに神父さんと司祭らしき偉そうな教会関係者2名がスタンバイしていて、それほど私たちが歓迎されているのかと思って偉そうな教会関係者に愛想よく近づいていったのに、相手は見向きもしないでそのまま擦れ違った。とても神に仕える身の振る舞いとは思えないが、気を取り直し薄暗い教会内部に入っていった。はっきり言って、歴史的建築物は基本的には外観を楽しむもので、内部なんかたいして興味はないのだが、それでも一応場所が場所だけに二拍ニ礼をして、シャッタースピードも長めに記念撮影などは忘れずにおさえておいた。

 外に出てみると、なにやら通りの向こうから馬車が来る。そして教会の前で停まった。私たちのお迎えかと勘違いする間もなく、中から純白のウェディングドレスに身を包んだ日本人の新郎新婦が出てきた。いや、新郎がドレスを着ているわけがないから、ちょっと表現に誤りがあるが、状況としては伝わるだろう。ここでようやく、教会の前にスタンバッていた人々の役どころが理解できたが、それにしても主役が到着したのに参列者があまりにも少ないのが不自然だ。両親と思しき人影すら見えない。さては世を忍ぶ結婚かとも思ったが、それにしては馬車で乗り付けるなどド派手な演出がシックリこない。これはもしかして、ブディストな人々がハワイなどで新婚旅行ついでに意味もなく挙げると言われている「海外教会ウェディング」ではなかろうか?そう考えると全てのナゾが一本に繋がる。参列者が少ないのは、当然誰も遥かメルボルンくんだりまで付き合えないからである。ご婦人3名は、不景気で仕事が手隙になったが、カネは相変わらずうなっている30歳前後の独身OLの友人たち。若い男性1名はツアーの現地係員。教会関係者は旅行会社とタイアップして破格の高値で金持ち日本人向けに式を執り行う本職の教会関係者。ナゾは全て解けた。全然違ってたらごめんなさい。