ペンギンの島で散財

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 メルボルンといえば忘れてはならない観光名所がペンギンパレードで知られるフィリップ島である。ということを私はメルボルンに来てから知った。メルボルン観光におけるフィリップ島の位置付けは、日光における華厳の滝みたいなものらしい、という解釈をした私は、華厳の滝の見事さを知っているだけに、フィリップ島に行かずにメルボルンを去るのは、何か大きな仕事をやり残したような後悔が残りそうで、それは避けたかった。まあ、実際は多少仕事をやり残したとしても後悔をするような小さな器ではないということは、日頃の仕事の忘れ振りからも容易に想像できるのではあるが。

 ところがこのフィリップ島って、市内からやけに遠い。メルボルンマップなんかだと当然はみ出して出ていない。ビクトリア州マップで辛うじて引っかかっているほどの遥か140kmのかなたに位置する。そんな僻地にあるのに、ガイドブックはメルボルン郊外の観光として片付けちゃっているのが考えてみれば不思議だ。140kmといえば東京から関越道方面に行ったとしたら高崎を通り過ぎて水上付近まで行っちゃう距離だ。はたして『るるぶ東京』に水上が郊外として載っているだろうか?まずあり得ない。東京郊外といえばせいぜい奥多摩とかだろう。いいところ30〜40kmの範囲だ。それなのにオーストラリアにくると、その距離はいきなり郊外になってしまう。こっちもいちいち距離のことまで気にしないから単に郊外にあるのだな、とか思ってしまって、でも公共交通機関は不便そうだからツアーでいいや、意外とツアーもオトクかもね、などと自分に都合のいいように考えてしまうものだ。ということで、早速日本語ツアーを申し込んだ次第である。

 ツアーは午後3時頃出発して夜中の11時頃帰ってくるというもの。さすが東京〜水上だ。道中は地平線まで続くような広々とした牧草地帯が広がっていて牛や馬が草を食んでいたりする。「オーストラリアは北海道に似ているなあ」などという会話をしてしまったが、地学的な生い立ちやその規模からしても、オーストラリアが北海道に似ているのではなく、北海道がオーストラリアに似ているという方が正しいような気がしてならない。しかし、そんな壮大で素敵な景色も30分も見れば飽きるようで、不幸にも助手席に乗ってしまった私を除いて、他の参加者はみんな寝ていた。

 途中、カンガルーに餌付けできる場末の動物園などに寄ったあと、当然ツアー料金に含まれていると思っていた夕食を自費で食べて、フィリップ島に着いてクルマを降りると、ペンギンパレードの観測地点までは徒歩である。尾瀬のように木道を歩いて浜辺まで行くのだが、尾瀬同様、人の多さに驚いた。「メルボルン版華厳の滝」という私の判断はやはり正しかったようだ。さすが中国正月期間だけあって中国人が多い。彼らはちょっとしたスナップ写真を撮るにもやけにバッチリとポーズをとったりしてなかなか滑稽である。ペンギンを見るより中国人を観察していた方がいろいろと楽しめそうなのであるが、オーストラリアくんだりまで来て中国人観察もマヌケなのでそれは止めた。肝心のペンギンの方であるが、パレードというくらいなので100匹くらいが一気に海から陸に上がってねぐらに移動するのかと想像していたのだが、実際は多くてせいぜい4〜5匹のグループが間隔をあけながら度々通る、てな感じであった。まあ、そうは言っても野生のペンギンで、北半球では見られない貴重な光景である。規則により写真を撮られないのは残念だが、あの愛嬌のあるペンギンたちの姿は忘れないだろう。

 ところで、今回のツアー代金は4人分で316ドル(約23,000円)であった。メシなしで行って帰ってくるだけでこの値段ははっきり言って高い。ツアー申込の時に価格の事も一応聞いたが聞き流した。オーストラリアマジックである。到着2日目で気持ちが大きくなっているところにまんまとはまった。考えてみれば、東京から水上まで家族4人で行こうとしたら、たとえ日帰りでもそれなりの金額になることは容易に想像できるが、到着2日目の人間にそんなことを言っても無駄である。後日、レンタカーが1日60ドルで借りられることが判明した時のショックは筆舌に尽くし難く、もう二度とツアーなんか参加するものかと固く誓ったのであった。